強引上司の溺愛トラップ
理想と現実は、本当に違うのか？

男の人は苦手なんですが。

「う、あ、あれっ」

変な呻き声が聞こえるなぁと思って振り返れば、営業課の上司の方がコピー機と格闘していた。どうやら紙詰まりのようだ。


「ああ、くそっ」

段々とイライラしてきた様子の上司に、私がそっと近付くと、上司はビクッと反応しながら私に振り向いた。


「渡辺さんかい。ビックリさせないでよー」

「あ、はい、すみません……」

ビックリさせたつもりはなかったんだけど、もう少し明るく話しかけるべきだったかもしれない、とは思った。


「ちょうど良かった。渡辺さん、コピー機直すの上手い人じゃん。紙詰まりなんだけど、お願いしてい？」

「は、はい。少しお待ちください」

カバーを開け、コピー機の画面に表示されているガイド通りに、くしゃくしゃに詰まった紙をさっと取り出した。

「あぁ、良かった。急ぎのコピーだったんだよ。助かったよ。さすがコピー機のナベさんだわ」

上司はそう言って、資料のコピーを続ける。



男性は苦手。とは言っても、大抵の男性は皆、いい人だ。それはわかってる。
今みたいに、たとえ些細でもこっちからなにかしてあげれば、皆お礼を言ってくれる。勇気を出して話しかけてみれば、皆笑顔で返してくれる。

だから、男性が苦手なのは相変わらずだけど、せめて職場の男性くらいは、自分からがんばってかかわっていこう……とはしてる。

二年前のあの合コンも、ああいう風に言われてしまったのはあの場で全然喋れなかった自分にも原因があるしね。
だから、あの時ああいう風に言われてしまったことがショックで、それが原因で男性がより苦手にはなったけど、「嫌い」になった訳ではなかった。


…苦手ではあるけど、いつか素敵な恋愛をしてみたい、という気持ちも僅かながらに持っている。

そりゃぁ、こんな私が素敵な恋愛なんて、無茶で無謀だとは思っているけど……。
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