強引上司の溺愛トラップ
職場からはそれなりに離れた駅の近くにある居酒屋で、私と課長はふたりきりの小さな飲み会を始める。
職場の近くだと誰かに見られるかもしれないし……まぁ見られてもやましいことはないけど……とはいえ、課長も気を遣ってこのお店を予約してくれたんだろう。
私は初めて来るお店だったけど、課長はよく来るらしい。
突然のことにちょっとドキドキしてるけど……でも、週末なだけあって店内はそれなりに混んでいて、その賑やかさは私の緊張をいくらかほぐしてくれた。
「ビールでいい? 何食う?」
狭い個室で、テーブルに向かい合って座り、メニューを見ながら課長がそう聞いてくれる。
個室はカーテンとかじゃなくて引き戸で完全に閉まってるから、まるで密室のような空間だ。
「え、えと……今日はビールじゃなくてウーロン茶で……」
「何で」
「い、いや先週迷惑掛けたばかりですし……それに今日は神くん……いえ、兄も飲み会なので、車でお迎えに来てもらえなくて」
「別に今日は酔い潰れるほど飲ませねーよ。先週のは一島が悪いしな。でもまあ、迎えがないなら俺が車で送ってってやるよ。俺の家、この近くだし。お前は飲め」
「え!? 飲酒運転はダメですよ!」
「アホか! お前を送ってくから俺は飲まねーよ!」
「そ、それもダメです!」
上司にソフトドリンクを飲ませて、自分だけビールを飲むなんて……それは絶対に出来ない‼︎
「と、というか、私そもそもお酒が凄く好きって訳でもないですし……本当に気にせずに、課長、飲んでください」
「何か悪いな、俺から誘っておいて」
「とんでもないです!」
「というか……」
「え?」
「酒好きでもないないのに、急に無理矢理誘っちまって悪かったな」