強引上司の溺愛トラップ
これ以上酔っ払ったらマズイんじゃないかなと思い、時間は少し早かったけど、お店をあとにすることにした。



「あーんもう、課長、ちゃんと歩いてくださいよー」

「無理……」

言いながら、課長は右手で口元を押さえていた。


本人曰く、歓迎会の時は気を遣って飲んでいたけど、今日は私と二人きりだったから気を遣わずに飲めたらしい。嬉しいやら、結果的に少々微妙な気持ちやら。



お店を出る時点で既にフラついていた課長の左手を私の肩に回し、一緒にゆっくり歩きながら駅まで向かう。男性とこんなに密着したことないけど、今は男性が苦手とか、そんなこと言ってる場合じゃない。


タクシーつかまるかな。大丈夫だよね。
課長の家知らないけど、この近くって言ってたし、タクシーでも問題ないだろう。



「課長はひとり暮らしですか? それとも家に誰かいます?」

この状態の課長をひとり家に帰すのが心配でそう聞くけど。


「ひとり……」

弱々しいトーンでそう返ってきた。


「ひとりでお家帰って大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない。一緒に来て……」

「冗談言えるくらいの余裕があるなら大丈夫そうですね」

「大丈夫じゃないもん……」

「大丈夫です」

ほんとに大丈夫じゃなかったとしても、一緒に泊まることはさすがに出来ない。
まあほんとに心配と判断したら融資課の先輩とかに連絡するかもしれないけど、駅に着く頃には課長も何とか普通に歩けるようになっていたし、吐き気もとりあえず治まったみたいだ。



「あ、課長。タクシー空いてますよ、良かったですね」

ちょうど一台空車になっていたタクシーに合図を送り、ドアを開けてもらうと、課長に乗るように促す。
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