はじめまして



俺の涙を、めぐみさんはそっと拭ってくれた。

「男の子はそんなに泣いちゃダメよ」

俺はコクリと頷きながら鼻をすすった。


「そうだ、私そろそろ帰らなくちゃ」

彼女は立ち上がり、近くに落ちていたナスを拾い上げた。

「これ、君が釣ったんでしょ?」

俺はコクリと頷いた。

「私ね、お盆だからこっちに帰って来てたのよ。でね、またこの『舟』に乗って向こうの世界に帰るところだったの。その途中、君がこの『舟』を釣っちゃったものだから、私は川に落ちたの。今ならこの話信じてくれるよね?」


「ごめん………」

俺は彼女に謝った。
彼女は首を横に振った。
その顔は優しい笑みを湛えていた。

「ううん、いいの。私、岳志君に会えて楽しかったから」

そう言って彼女は俺に背を向けた。

俺はその背中に向かって言った。

「めぐみさん、もし君が再びこっちの世界に、人として生まれることがあったら、また会ってくれないか?」

彼女は振り向いた。
その顔は笑顔だった。

「向こうの世界の『お勤め』も、もう終わってるから近々転生出来ると思うの。じゃあ、約束しましょう。私がまた女の子に生まれ変われたから、その時は岳志君の恋人にしてね」


真っ白な彼女の顔は少し紅潮しているように見えた。

俺は彼女に1歩近づいた。
彼女も俺に1歩近づいた。

そして、少し背伸びをして、俺の顔の前で瞳を閉じた。

俺はそっと彼女の唇に自分の唇を重ねた。



約束……よ



心の底にめぐみさんの声が響いた。

再び目を開けると、そこには夏の日射しに水面をキラキラと反射させている川が流れているだけだった。


さよなら………


俺は小さく心の中で呟いた。


待ってるから………


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