水曜日の片想い


「なんだよそれ」


「なにって百合ちゃんがそう言ってて………」


「はぁ……そうか……」


顔を手で覆い隠し、深いため息を吐いている。


え?これは、どっちのため息なの?


必死に振り絞って出した言葉の返事がこれだと、不安がさらに重なって緊張が抜けない。


早く言ってと心の中で急かしても橘くんに通じるはずはなく、「俺を巻き込むなよな」とぶつぶつ文句を続けてる。


ドクン、ドクンと高鳴る心臓の音と破られない緊張感。


空気を吸い込んだ橘くんの口元を見て思わず肩が震えた。

返事が返ってくるとすぐに感じたからだ。



「そんな変な約束、昔から今日まで1度もしたことないから」




約束、してないの………?


肩まで重くのし掛かっていた緊張が一瞬にして溶けていく。

心が軽くなった分、体も軽かった。


「瀬戸があまりにもバカだから遊ばれたんだろ」



なんだ……そっか……。

結婚の約束なんて本当はしてないんだ。


「………そうかも、ね」


バカという言葉に今さら苦笑した。


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