水曜日の片想い


「なぁ、俺にもひとくち」


「へっ?」


ボソッと小さく呟いた後、橘くんの顔がすぐそこまで迫ってきていた。


うわわわっ、近い……近いって……!


顔との距離は数センチ。

橘くんの吐息が頬を擦った。


無理っ………直視できない……!!



「ーーーやっぱ、甘いな」



離れた……の、かな?


遠ざかった橘くんの声に安堵して、反射的に閉じてしまっていた目を恐る恐る開いた。


手に持っていたわたあめには、ぱくっとひとくちだけかじられた跡がある。


はぁ……びっくりしたぁ……。

強張っていた肩の力がゆるゆると抜けた。


急に近づいてくるから心臓飛び出そうだったよ。

橘くんはかっこよすぎるから危険だ。

魅力に酔いしれてクラクラしちゃう。


あんなに顔との距離が近づいたのは、たぶん英和辞典を返しに行った日以来だろう。


あの時はキスまで距離。

当然、遊ばれていただけだったけど。


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