水曜日の片想い


「じゃあ花火でも見に行くか。瀬戸を探している間にいい場所見つけたんだ」

「う、うん」


「今度は逸れないようにな」

「もう大丈夫!」


とは言っても……。


またぬいぐるみを落として追いかけることはないだろうけど、こんなに人がいるんだもん。

また逸れてしまう可能性は十分あり得る。

そしたら同じことの繰り返しだ。



「裾、掴んでもいい……?」



橘くんのTシャツの裾にきゅっと軽く触れてみる。

逸れるくらいなら、最初から橘くんに捕まってればいいんだよね。

でも「触るな」って言われちゃうかな。


恐る恐る顔を上げた。


すると、


「………好きにしろ」



素っ気ない橘くんの声が聞こえた。


ふいっと顔を逸らされてしまったけど、橘くんなりの「いいよ」っていう言葉の代わりなんだと思う。


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