水曜日の片想い


「変な男に絡まれて逃げたら転んだのよ……」


「なっ……!」


あっ。


触れていたTシャツの裾から手が離れた。

隣に立っていたはずの橘くんがわたしの横を通り過ぎ、百合ちゃんの元へと走って行く。


横切ったときに吹いた風が異様に冷たく感じたのは、気のせいであってほしい。


「だ大丈夫か!?何もされてないか!?」


この瞳、見たことある。

さっきまでわたしに向けてくれた真剣な瞳と同じだ。



……そうだよ。

橘くんは誰にでも平等に優しくできる人。


そこが橘くんの素敵なところだし、優しすぎる温かい人だから好きになったの。


わたしだけに特別優しくしてくれるわけじゃないんだって、知ってたよ。


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