水曜日の片想い


「大丈夫よ。浴衣は汚れたけど、何もされてないわ」


「そうか……よかった……」


ポンッと百合ちゃんの頭の上に落ちた橘くんの大きな手。


真剣な瞳は熱を引き、甘く優しい瞳に変わっていた。


あのキャラメル色の瞳には百合ちゃんだけを映している。

わたしなんか一切眼中に入っていないような気がした。


まるで、わたしと橘くんの間に見えない線が引かれたみたい。



「ふふっ、心配性なんだから。それよりどこかに水道ないかしら?浴衣の汚れをどうにかしたいのよね」


「あっ、わたしハンカチ持ってるから水道で濡らしてくるよ!」


「それなら俺も………」


「すぐそこだから大丈夫だよ。橘くんは百合ちゃんと一緒に居てあげて」



1人、逃げるようにその場からパタパタと走り出した。


< 214 / 291 >

この作品をシェア

pagetop