水曜日の片想い


「なんだよ、いらないのか?」


「あぁ、待って!いりますいります!!」


「騒がしいな」


手渡されたのはどこにでもあるような普通の英和辞典なのに、フィルターが掛かったようにキラキラして見える。


大好きな橘くんからついに勉強道具を借りれるくらいの仲に進歩したってことだよね??

これが橘くんの私物………。

英和辞典がすごいオシャレに見えてきたよ。



「もしかしてさ、わたしが困ってたの気づいてくれたの……?」


ドキンッと心臓が跳ね上がった。


もちろん橘くんがエスパーなはずはなく、教室に訪れたわたしに気がついてくれたことになる。


橘くんに振り向いてほしくて、図書室に通い始めてはや数日。


ようやくわたしを見てくれるようになったのかな?

ちょっと期待しちゃう………。



しかし、そんなはずもなく、


「たまたま目に入っただけだ」


橘旭陽は面白いくらい期待を裏切る男だった。



「そ、そっか……!」


もう、たまたまでもなんでもいい。

目に入っただけのわたしのために貸してくれた。

それだけで十分すぎるくらい嬉しいもの。



冷たい言葉の裏には優しさが詰まってるのをわたしは知っている。


橘くんのさりげない優しさも大好きだ。


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