嘘つきな唇
「やっとあの人帰ったんですか?」
缶ビール片手に隣人の相川がベランダに出てきた。
「…なんで来てたこと知ってるのよ」
ベッドインしてる時の声はできる限り抑えていたはずだ。
それでも私は少し気まずくて、わざと相川と正反対の方の景色を見ていた。
「少し前に玄関のドアが閉まる音がしたから…
この時間だったらあの人くらいしかあなたの部屋を出入りするお客さんなんていないでしょ?」
「…余計な詮索はしないでよね。明日会社でいじめるよ?」
「そんな事言ってさ…また泣いてたんじゃないんですか?」
相川は静かに缶ビールを口に運びながら
非常用パーテーションにギリギリまで近づいてきた。
「プライベートだからって近付きすぎよ?」
ちらっと横目で睨みつけると相川は笑う。
「それならリーダーがそっちに寄ればいいんじゃないですか?こっち側にいるってことは、慰めて欲しいのかな?って思っちゃうじゃないですか」と冗談交じりな笑うから
その頭を軽くペチリと叩いてやった。