糠床日記
三月だった。
二月か一月かもしれないけどとにかく寒い日だったことは、忘れない。
匂いが記憶に残るという人がいる。私はそうでもない。空気が冷たいから、だから匂いもあまり伝わって来なかったのかもしれない。
私が覚えているのは感触だけだ。
彼は右効きで、つまり普通そうな子だった。第一印象は。
「今まで何人くらいの女の子とセックスしたことある?」
「女の子?女の人を除いてってこと?」
それ以上、彼に話を聞くのはやめにした。
どうせ話なんかできなくなった。
彼の手は独特なのだ。六本指なのだ。
会話どころか、日本語にすらなっていないおぞましい音を発しながら私は、この冬のうちに手袋を編んでみよう、と考えていた。
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