右肩の蝶、飛んだ。


元スポーツ選手と元女優の偽装結婚、か。

好きかって書かれた記事は同情するけれど、他人事のような。

私よりこの人を優先する直臣さんを知ってるから、不幸な様子に溜飲が下がる自分がいた。


「あ、でも一週間後の出張で挨拶するんだった。やばい、こんな記事、先入観もっちゃうじゃん」

「あら、出張? 勿論同じホテルで同室よね?」

「さあ、でも仕事で行くんだし」
「でも婚約者よね?」

「……朝から下ネタ禁止」

「私は何も言ってないわよ」

ニヤニヤ笑う店長が腹立たしい。

他人事だと思って、気楽な奴め。


結局だらだらと意味の無い会話で時間を潰し、朝ごはんをぺろりと完食したころには出勤時間だった。

お会計をしているとドアベルと共に、冷たい朝の風が入り込んだ。

振り返ると今日もばっちりな直臣さんがスーツ姿で立っていた。


「直臣さん」

「胡蝶が朝から行く場所って此処しかないからね」




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