右肩の蝶、飛んだ。
ちょっと悩ましげな表情で私を見ると、またカウンターへ舞い戻された。
ポカンと見る私をよそに、直臣さんは椅子に座り、溜息を吐く。
「どうしたの?」
「貴方達の結婚についてならこの子にもう聞いたから二度目は止めてよ。あ、マリッジブルーかしら?」
「日田の結婚式場で、手作りのウエディングドレスフェアをするらしく、うちの工房も出展をお願いしたいらしい」
「え」
全く頭の隅っこに追いやって考えないようにしていた蝶矢と完全に繋がりを消すのは難しいみたい。
うちは手作りドレスで暫く食いつないでいたことがあるので、得意な分野でもあるし実績もある。
ただ、一枚縫うのに時間がかかるうえに、一気に何枚も注文されたとしたら――忙しくなるよね。
「来週の疑似結婚式のウエディングドレスも、急遽うちのドレスで行ってくれるようになった」
「すごいじゃない。滅茶苦茶プッシュされてるわね」
結婚式場を迷っているカップルが、疑似結婚式を見に来て、そのまま式を予約したりするフェアは、式場では定期的に行われている。
けど、確かに上手くいきすぎていて――蝶矢の腹黒い顔が目に浮かぶ。