右肩の蝶、飛んだ。


「ん?」

「石垣さんとも、寝た?」


「――」

その目が大きく見開いて、口元だけ不器用に笑った。

――可哀想に。

あの世間知らずのお嬢様は、ただ真面目な青年に擬態した蝶矢に騙されて、奪われてるわけだ。


だから、あんなに態度も大きくて、やけに親密だと思ったんだよね。

馬鹿らしい。

「帰る」

「え」

「早く、送って。終電逃しちゃう」


身も蓋もない。
こんな関係、意味もない。




本当に――本当に私が好きなら証拠を見せて。


閉じ込めるだけじゃ、蝶は自由な空へ逃げたいという気持ちが消えなくて。


羽を切れば、その切った本人を憎んでしまう。


蝶を閉じ込めても、蝶からの愛情なんて貰えやしない。


蝶が肩に留まるぐらいの、信頼と愛情は、簡単にはできやしない。
< 159 / 186 >

この作品をシェア

pagetop