右肩の蝶、飛んだ。
酒が欲しい。
売りに来る車内販売の乗務員さんを待つが、一向にくる気配が無かった。
日田から福岡までの最終便に、まさか車内販売が来ないなんて。
苛々が募り、小さな窓に額をぶつけながら月を見た。
馬鹿みたいに、月が綺麗に輝いてる。
私が蝶なら、真っ先に踊りだしそうな賑やかな夜。
――丸裸にされかけた。
蝶矢にあってから狂いだしたのは、擬態する必要が無くなったこの日常のせいだ。
あんなに直臣さんと頑張ってきた工房を立て直そうと燃えていた私は、満月に吸い込まれ消えてしまった蝶のよう。
やる気が消えたわけでは無く。
蝶矢が私の本性を少しずつ暴いていったから。
いつでも逃げてしまえると思える環境だと気づいた私は、この工房に執着する必要はなくなった。
嘘と言う化粧で擬態していた私を、――直臣さんは過去は関係ないからと興味を持ってないことに気づいた。
それはつまり、擬態しなくてもしてても、私と言う托卵場所だけ確保できれば良いだけだった。
私の場所のバランスの悪さも暴かれて、丸裸にされて、流されてしまいそうになった私は、蝶矢が誰かを抱いたことがあると思ったら嫌悪した。
百年の恋も冷める様な勢いで、急速に。