右肩の蝶、飛んだ。
自分が何もないということ。
自分の手には、何も残らない。
何も持っていない。
馬鹿みたいに残っているのは、真っ白なヴァージン。
それも、頑なに身体を強張らせているうちに売れ残りの年齢にまでなってしまっている。
この、馬鹿みたいな私は、一体どこに留まればいいの?
羽音もせず、大人しく舞っていただけの私を、なんで誰も分かってくれないんだろう。
福岡に着いて真っ先にしたことは、キャリーケースに何日か分の着替えを詰めたこと。
そのまま、ジーンズにTシャツの上から可愛いポンチョで隠して、ただただ店長の元へ急いだ。
「店長」
「あら、早かったわね。お帰りなさい」
「店長、行こう」
「は?」
BARは相変わらず、満員ではないが一人では大忙し程度にお客が入っている。
呑気に、カクテルを作りながら店長が私を見て、大きく口を開けた。
「直臣さんの所、行こう。北九州空港まで送って」
真っ先に浮かんだ行き先に、カクテルをカウンターからお客へ滑らせながら渡す。そして、私を鼻で笑った。
「とっくに最終便は出てるわよ。何時だと思ってるの」
「じゃあ、此処で朝一のに乗るから、――お酒頂戴」
「なあに? そんなに急いじゃって」
台拭きでカクテルを作っていた部分を拭くと、私用に軽いお酒を作りだした。
そんなモノ、今は全く欲しくなかったのに。
「今なら、直臣さんに抱かれたいって思ってるの」
「ぶっ」
大袈裟にこける真似をした後、店長は面白そうに空の瓶を纏めだした。