右肩の蝶、飛んだ。
女優で、旦那さんはアスリートで、離婚調停中で、一児の母で――。
そんなスキャンダラスな雰囲気が、直臣さんと一緒に居たら感じられない人だった。
「あ、やだ、角砂糖」
ただ、大きく開いた背中からは、隠れることもできない紫色の蝶が顔を出していた。噂の蝶のタトゥーだ。
福岡のマンションが生活感が無かったのは――あそこが直臣さんが帰る家ではなかったからだ。きっと彼の本当の家は此処だ。
この、社長のように紫色の色香を漂わせるマンション。
紫色の家具で統一され、キッチンからは生活感を漂わせる食器。
どこもかしこも社長の痕跡がある。