右肩の蝶、飛んだ。
「凛子、そろそろ」
「そうね。仕事へ行かなくちゃ。あげはのお迎えはお願いしてもいい?」
「ん。大丈夫だよ」

直臣さんの瞳は、慈愛に満ちていて、優しくて――深い深い情熱を隠している。
彼はきっと、影で彼女を支えられる今のポジションが、大事で大切で壊したくない場所だんだろう。

「いってらっしゃい」
「結婚式は私がドレスデザインさせてね。えっと胡蝶さん?」
「はい」
「蝶は私のシンボルなの。花から花へ、飛びまわる華やかさと気まぐれは、『男なんかに頼らない』って感じで好きなの。だから、貴方の名前も大好きよ」

花のように豪快に笑うと、大きなサングラスとツバの大きな帽子を被り、綺麗に手入れされたネイルを光らせて手を振って去って行く。

……彼女はきっと直臣さんのそんな冷静な情熱を知らない。知る由もない。
その位置から守って貰ったらいいんだ。一生。

「社長ってあんな飾らない感じなんだ。びっくりした?」
「ううん、私がびっくりしたのは、そっちじゃない」
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