右肩の蝶、飛んだ。
このまま数年後には消えてしまいそうな気がする。
社長の離婚だって正式に決まったし――子供はどうやら父親が違うらしいし。
直臣さんに似てるって思ったことは、一生口に出さないようにしておこう。

「そう言えば、名字は美崎から本名に戻さないの?」
「それも、悩んでる。戻したいけど、どう説明する? 蝶矢は親のこと、どう説明してるの」
「身体が弱くて小さい頃に亡くなった事になってる」
「うける!」
「姉さんは?」
「怖くて聞かれたら固まっちゃう」
「じゃ、二人で設定きめとこうか」

おつまみのチーズを見つめながら、蝶矢は小さく笑う。

「料理が好きで」
「いつもマキシ丈の長くてふんわりしたスカートを履いてて」
「おっとりして、どじばっかで」
「歌が上手くて」

「笑うと目がなくなって」

「良い匂いがして」

何が楽しいのか、空しいだけなのに私たちは爆笑した。

私の飛び出した先の未来は、色々不穏な空気なのに、何故か蝶矢と笑ってしまってる。
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