右肩の蝶、飛んだ。


タクシーでの帰り道、私は窓の外に釘つけになった。
「どうしたの?」
「――14年ぶりだと、もう昔ここに何があったとか全て思い出せなくて。美味しいポテトのお店があったんですけど」
 いや、量が多くて食べられなかっただけ? うーん、記憶が曖昧だ。
でも、好きなメニューぐらいは、辛い過去だらけだとしても、楽しかった思い出ぐらいは直臣さんと共有してみたかった。
「ああ。もしかして探してるお店ってオレンジキッドですか」
タクシーのおじさんが不意にミラー越しに話しかけて来た。
「そうです。それです。もう潰れちゃったんでしょうか」
「いや、10分ぐらい行った所に移転したよ。名前もハンドメイドキッチンOJってなっててね。帰省した若い人に良く聞かれるから覚えちゃったよ」

「わあ、そうなんですね」

10分って結構遠いよね。残念だけど、当時のそれがまだ形を変えても存在してるなんてちょっとだけ嬉しい。

「それってテイクアウトも出来るの?」

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