右肩の蝶、飛んだ。
思わず盛大に舌打ちしてしまいそうになった。
忌々しいからではない。
どっちに転ぶか分からなくなったからだ。
「久しぶりですね。義姉さん」
駄目だ。覚えてる。
――恨んでる?
私に復讐したいのなら、私はこの人の目の前から消えなくてはいけない。
会社の存続は、全てこの男にかかっている。
義母に虐げられていた憐れな義弟を、私は生贄にして生き延びた。
その義弟だった人物が――取引先の社長。
彼は覚えているだろうか。
蝶の羽を捥ぐのを楽しそうにしていたあの日の自分を。
貴方の背中にさえ触れたくない。
背中合わせ、触れたくない背中。
それぞれ違った方向で生きてきた。
交わらないのは視線だけ?