右肩の蝶、飛んだ。
「胡蝶(こちょう)」
小倉駅の二階のホールで待っていたら、電車のチケットをひらひらと振りながら、長身の彼がやってきた。
ちょっと癖がある髪が、色んな方向へ向いているが、短く爽やかに切られてお洒落だし、堀が深くて鼻も高いのでモデルのように格好良い。
いや、元モデルだから格好良いのは当たり前だ。
「はい。大分行きの切符。駅弁食べながらのんびり行こうか。朝、食べてないだろ」
「直臣(ただおみ)さん、よく食欲湧きますね。私、プレッシャーで怖い夢見ましたよ」
「あはは。契約とれなきゃ、工房が潰れちゃうから?」
陽気に笑う直臣さんに溜息しか出ない。やばい、胃がきりきりと痛みだした。