右肩の蝶、飛んだ。
大分行きのソニックなんて、平日はスカスカで指定席を取る必要はない。
大型連休だって、大分までなら指定席は要らなかったし、その先の長崎や鹿児島行きまで長時間乗る人で賑わうだけだ。
それを知っていたのに私は敢えて、直臣さんに言わなかった。
地元は四国と誤魔化していたし、逃げて来た理由が悲惨だから。
でも今から向かう大分の日田市は、大分でありながら回りが山で囲まれていて、大分市へ行くよりも福岡に遊びに行く方が便利で近い。
だから、大分なんて二度と足を入れたくない場所なのに、私は我慢が出来た。
それに日田も数年住んでいたけれど、嫌な思い出は無かったし。
あるとすれば――蝶だ。
ヒラヒラと千切れて落ちていく綺麗な羽の思い出。
「そう言えば、怖い夢ってどんな夢?」
同じ車両に誰も乗っていないのを確認すると、開けて駅弁を開き始めた。
今から大型の契約を取りに行くのに、いや、これを逃したらこの工房は倒産と言っても過言ではないのに。
呑気な人だ。
「蝶がね、ひらひらと飛んでいる夢。綺麗なの」