右肩の蝶、飛んだ。


26にもなってって、それは耳に痛い言葉だけど。

「いつになったら私は夢が見えるのよ。よぼよぼのお婆ちゃんかしら」

「そうそう。――再会した時より、口が悪くて本性を曝け出して、夢も希望もなく擦れてるとこも素敵だよ」


こいつは――。


呆れるよりも、私の髪を撫でるその手に気を取られて怒れなかった。
優しい手つきなのに、その指は冷たい。
心が温かい人はたが冷たいとか、口が上手い奴が言ってたけれど、嘘だね。

冷たい手は、冷たい心の証だと思うよ。


論より証拠。試したかったらどうぞ、と諦めた瞬間だった。

けたたましく携帯が鳴りだした。

床に放り投げだされた携帯が、怒ったように鳴る。

朝の、何個も何個もセットしたアラームの用に。

まるで、浮気がばれたような、罪悪感が背中を走った。
「携帯、止めてきて」

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