右肩の蝶、飛んだ。

店長の声を聞きながら、蝶矢はテーブルに手を伸ばすとハサミでネクタイを切った。
高価なネクタイにハサミを入れることを躊躇せずに、けれどそのまま携帯を奪うと電源を落とされて。私は一晩、蝶矢の寝室へ閉じ込められた。

出してと何度も扉を叩いたけれど、うんともすんとも言わない扉の向こうに私は諦めてベットを占領して眠った。

何がスイッチで不機嫌になったのか分からないけれど、蝶矢はもう私を脅迫する様子はない。
過去を知っている人が居るのは、生きにくいけれど、今さら一から新しい場所で生きて行くよりも、きっとこのまま福岡で生活していけるのであればそれでいいのかとも思う。

明け方、携帯のアラームで目が覚めたけれど、一向にアラームを止める気配が無い様子だったので、ドアの金具を外してそちらから出ると言う暴挙に出て見た。
閉じ込められていた子供時代の知恵が、こんな時に、しかも蝶矢に役に立つのはちょっと悔しいけれど仕方ない。
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