右肩の蝶、飛んだ。
店長は楽しげに笑うと、何も言わずに奥へ引っ込んでしまった。
生き生きしている、か。
昨日、途中から取り繕うのを止めてしまった私が居たので、もしかしてんああってしまったのかもしれない。
「直臣って一週間出張なんだっけ?」
「や、それは次の東京で今回は神戸に行ってるだけで今日の夕方にでも――」
最後まで言い終わる前に、店長が私の腕を引っ張った。
そして、服の裾を捲ると、怪訝そうな顔をした。
「この痕は隠した方がいいんじゃない」
そう言われて手首を見ると、昨日のネクタイで結ばれた部分が赤くなっている。
鬱血しているわけではなく、私が暴れた時に擦ったようだ。
でもこれぐらいならば、転んだとか言い訳は幾らでもできる。
「良いから言うとおりに隠しておきなさい。経験のない貴方には分からないだろうから」
「そんなもん?」
「直臣は嫉妬深いって言ったでしょ? 知らないわよ」
直臣さんを良く知る店長だからこその発言。身に染みて私は頷いた。