右肩の蝶、飛んだ。

店長は楽しげに笑うと、何も言わずに奥へ引っ込んでしまった。

生き生きしている、か。
昨日、途中から取り繕うのを止めてしまった私が居たので、もしかしてんああってしまったのかもしれない。


「直臣って一週間出張なんだっけ?」
「や、それは次の東京で今回は神戸に行ってるだけで今日の夕方にでも――」


最後まで言い終わる前に、店長が私の腕を引っ張った。
そして、服の裾を捲ると、怪訝そうな顔をした。

「この痕は隠した方がいいんじゃない」

そう言われて手首を見ると、昨日のネクタイで結ばれた部分が赤くなっている。
鬱血しているわけではなく、私が暴れた時に擦ったようだ。

でもこれぐらいならば、転んだとか言い訳は幾らでもできる。

「良いから言うとおりに隠しておきなさい。経験のない貴方には分からないだろうから」
「そんなもん?」
「直臣は嫉妬深いって言ったでしょ? 知らないわよ」

直臣さんを良く知る店長だからこその発言。身に染みて私は頷いた。

< 89 / 186 >

この作品をシェア

pagetop