【完】何度でも、キミの瞳に恋をする。
1*『何度でも恋をする。』
❅
*
॰
ॱ
あの日、一さんは俺を病院の屋上に呼び出した。
金木犀の香り漂う、秋の夜のことだった。
「急に呼び出して、悪かったな…。」
そう言って顔を上げた一さんのその瞳には、もう、なにも、映っていなくて、
俺は少し、ぞくり、とした。
「やめてくださいよ。そんなの………」
嫌な予感を振り払うようにわざとらしく笑った俺に
「俺はもう、長くは生きられない。」
現実を突きつけるみたいに
一さんは俺の目を、しっかりと見据えてそう言った。
……―まるで、現実から逃がさないぞ、とでも言うように。
「そんな………。嘘だ………。」
俺は、そんなこと、認めたくなかった。
「いいや、嘘じゃない。自分の体のことだ。自分がいちばんよく分かっている。」
一さんはハッキリとそう言う。
確かに、一さんは少し前から度々発作を起こすようになっていた。
そして、その頻度は日に日に多くなってきている。
………でも、担当の医師は、
まだ、そんな、
一さんの生命の終わりが近いなんて
そんなことは、言っていなかったはずだ。
俺は、どうしても理由をつけて認めたくなかった。