【完】何度でも、キミの瞳に恋をする。
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「お母さんっ!!!」
涙を流し、息も絶え絶えに叫ぶ、
幼い優菜の姿。
ぼろぼろになったお母さんを揺すって
優菜は泣き続けた。
優菜のお母さんは、居眠り運転の車に引かれて、亡くなってしまった。
俺は、言葉が出なかった。
「おいていか……ないで………。」
濃紺の、澄んだ瞳の下に
今にもこぼれ落ちそうにふくれあがる
大粒の涙の中に
もうひとつの景色が映った。
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「おいていか……ないで………。」
幼い俺が、母親の足にすがりついている。
「ワガママ言わないの。アンタはもう、お兄ちゃんでしょう。しっかりしなさい。」
「でも………」
「『でも』じゃないっ!」
その叫び声と同時に
頬へ、強い衝撃が走る。
「アンタは、誰のお陰で生きてると思ってるの?
私が、仕事しているからでしょう。
それが、嫌なら………。」
鋭い眼差しに、
心が縮む
背筋が凍る
イヤだ……
ききたくない。
その続きなんて…………
「アンタなんか、いなければいい。」
―言わないでっ!
…………………………―
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“彼女”が戻ってくるのは、多くても月に1回ほどで
何ヶ月も家には戻ってこないことだって、珍しくなかった。
そんな、孤児同然の俺を
黙って抱き寄せ、人のぬくもりを教えてくれたのが
一さんだった。
俺は、夜な夜な聞こえる、一さんと“彼女”の低い声で
一さんが“彼女”を俺のために説得してくれているのが分かって、
俺は、子供ごころに一さんに感謝した。
そして、ついに、一さんのおかげで俺は、
一さんの下で暮らせるようになった。
そこには、かわいい妹となる優菜もいて、
一さんたちとの生活は、今までにないくらい幸せなものだった。
だから、一さんは俺の命の恩人で………
唯一の“お父さん”だ。
そんな一さんの一生に一度の願い。
俺に出来ることであるならば、やってみせたい。
…………―例え、それが、難しいことだとしても。