その嘘に踊れ

日は落ちた。

ドーンドーンという遠い音に合わせて、暗い夜空を炎の花が彩る。

またもバスローブ姿でビール片手に既にご機嫌なデイジーと、またもジャージ姿で『なんで僕まで…』とブツブツ呟くオタくんが待つマンションの屋上に、アオと透子はやって来た。

ゴツゴツした小麦色の左手首と、折れそうに細い右手首を、手錠で繋いで。

その上、しっかり手まで繋いで。

そんな二人を目にした途端、


「リア充もげろ。
もげて、爆ぜて、花火のように消え失せろ~」


なんて、オタくんが呪文を唱えるが…

ハイ、とりあえず無視。


「結構なお品を頂戴しまして、ありがとうございます。
早速着させていただきました」


ヘソの下辺りで左手を前に手を組んだ透子が、礼儀正しくデイジーに頭を下げた。

なんつーか、ね。
やっぱり彼女の所作には品がある。

浴衣の着付けも、これまた完璧。

裾は踝が隠れるくらい。

前襟はキッチリ合わせて後ろ襟を適度に抜いて、いやらしくないのに色っぽい。

変わり矢の字に結んだ黒地の半幅帯の上に赤いトンボ玉がついた帯締めを通した、なんとも粋でこなれた着こなし。

そりゃ、お嬢サマ学校って言うくらいだもん、着物の着付けくらいは習うンだろうケドさ…

この慣熟感はナンナンダ?

目が離せない。
竹久夢二の絵から抜け出したような彼女から。

白いうなじから。
艶やかな黒髪から。
初めての紅を差した、その唇から…

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