その嘘に踊れ
「うっふっふっ。
その方法は一つだけよぉ。
ルージュを塗った唇で、男にキゴパっ」
あらら、とうとうヒット。
ふぅ、と息を吐いたアオが、額の汗を手の甲で拭う。
やりきった顔しちゃって…
このままじゃ終わらないのは、わかってるよね?
『やったわねェェェェェ!』
と太い声で吼えたデイジーが、すぐさまオタくんが差し出すビール缶を投げて応戦する。
飛んでる缶が増えたのは、オタくん、君のせいだったの。
その上、
『もげろ~もげろ~も~げ~ろぉぉぉ』
と呪文を唱えながら、つまみとして持ち込んだカキピーのピーを、アオに向かって投げつけている。
カキの部分はどーなった、って?
食べてるンですよ、もちろん。
ゴキブリも出てないのに、まーた戦場。
コイツらバカなの?
死ぬの?
手錠のチェーンが伸びる範囲で避難して、戦闘には参加せずに夜空を見上げる透子を、アオは飛来するビール缶を避けながら盗み見た。
別に、返してもらえるなんて思ってないよ。
俺が選んだ色を乗せた君の小さな唇で、俺の唇を染めてもらえるなんて、これっぽっちも思ってないよ。
ただ、夢を見たかっただけ。
花火に照らされた君の横顔のような、儚く美しい夢を見たかっただけなンだ。
花火大会の夜は更ける。
空に咲く大輪の花々が建物の窓ガラスにも映り込み、束の間、都会に花畑が現れる。
少し遠くに建つビルの屋上の一点も、花火を反射してチカリと光った。