その嘘に踊れ

『何者か』って… 何者だ?

すぐに思い当たるのは、例の件を依頼したクライアント。
だがそれなら、透子の居場所も一緒にリークするだろう。

じゃ、別の『何者か』?

アイツら、もしくはクライアントを知っていて。

俺がアイツらを裏切って命令に従わなかったコトも、だから透子が生きているコトも知っていて。

居場所まで押さえていながら、致命的とまでは言えない、俺にとってはイヤガラセのようなリークをした『何者か』?

誰だよ、ソレ。
今回の件とどんな絡みがあンだよ。

情報が少なすぎてお手上げだ。

とりあえず棚上げしておいて…

重要なのは、これから透子をどうするか、だ。
まだバレてはいないが、このままあのマンションに隠しておくのは危険だ。

だが…
ドコに移動しても、もう結局は危険なのだ。

既に捜索は始まっているだろう。
アイツらに生存が確認されたのだから。

どうする?

彼女に逃げ回るだけの人生なんて送らせたくはない。

彼女は、自分の身にナニが起こったかなど何一つ知らないまま、元の平穏な世界に戻るべきなのだから。

短いひと夏の出来事など忘れて。
俺のことなど忘れて。

なら、どうする?


(誘いに乗って、アイツらを騙してやるか…)


旨そうな疑似餌をブラ下げて、一足飛びにクライアントに接触できるような取引を持ち掛けて…

嘘つきの、腕の見せどころだ。

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