その嘘に踊れ

読みが甘かった。

予想の遥か上をいく、最悪の状況だ。

『ならず者の夢』の再現なんて、笑っちゃうような勘違い。
既に監視されている店内。
それを知っていながら、他人のフリをやめて親しげに話す彼。

つまり…


「正解だ、『Sy-u800』。
俺は、おまえに靡くと見せかけて女と消えた仲間の居場所を聞き出し、その後でおまえを殺せと命じられてココに来た」


アオの死刑宣告を、優しく弧を描くビジネスマンの唇が紡いだ。

彼がその命令を遂行するには、実力差からいってアオの不意を突くしかない。

なのに、なんでバラしちゃったの。
てか、なんで笑ってンの。


「おまえ…ナニ考えてンだ?」


この先に起こることを予感して、アオの端正な顔が引き歪んだ。

それでも、ビジネスマンは笑っている。


「おまえに、逃げてほしいと思ってるよ」


笑いながら、自らの首に見えない縄をかける。

そう、彼は死ぬ気だ。

命令違反は裏切り。
裏切り者は死刑。

監視の目がある中、ナニもせずにアオを見逃せば、彼は殺されてしまうのだ。


「ココを出ても油断するなよ。
俺が何も聞き出せなくても、おまえさえ殺せば、保護する者がいなくなった女を見つけて始末するのは容易いと、アイツらは考えてる」


穏やかな微笑みの中に悲壮な覚悟を隠して、ビジネスマンはアオの胸を拳で叩いた。

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