その嘘に踊れ
いったいどうすれば?
透子は死なせない。
何一つ知らせるコトなく、元の世界に戻す。
これは決定事項。
だが、彼を見捨てて逃げることもできない。
行かなくちゃ。
逃げられない。
でも、行かなくちゃ。
でも、逃げられない。
いったいどうすれば…
残酷な選択を迫られて、動けなくなったアオの耳に…
「わっ」
短い悲鳴が聞こえた。
ナニ?
襲撃にはちょっと早くない?
反射的に振り返ったアオの目に映ったモノは。
誰かが落としたパチンコ玉でも踏んで滑ったのか、トレーを持ったままつんのめる馴染みのコーヒーレディと、放物線を描いて飛ぶプラカップ。
あぁ、スロー再生で見ているようだ。
ビジネスマンの頭にヒットしたプラカップの蓋が開く。
中から茶色い液体と氷が溢れ出す。
そして、ビジネスマンの全身を一気に染める…
アオはあまりの惨状に目を見開いた。
頭からアイスコーヒーシャワーを浴びたビジネスマンも、自らを襲った惨状に目を見開いた。
不慮の事故とは言え、惨状を引き起こしてしまったコーヒーレディは…
「あああぁぁぁ!?
ヤっべぇぇぇ!?
クビになっちゃうぅぅぅっ!?」
床に膝をついたまま、派手なネイルを施した爪で、クルクルと巻いた髪を掻き乱した。