その嘘に踊れ

いったいどうすれば?

透子は死なせない。
何一つ知らせるコトなく、元の世界に戻す。

これは決定事項。

だが、彼を見捨てて逃げることもできない。

行かなくちゃ。
逃げられない。

でも、行かなくちゃ。
でも、逃げられない。

いったいどうすれば…

残酷な選択を迫られて、動けなくなったアオの耳に…


「わっ」


短い悲鳴が聞こえた。

ナニ?
襲撃にはちょっと早くない?

反射的に振り返ったアオの目に映ったモノは。

誰かが落としたパチンコ玉でも踏んで滑ったのか、トレーを持ったままつんのめる馴染みのコーヒーレディと、放物線を描いて飛ぶプラカップ。

あぁ、スロー再生で見ているようだ。

ビジネスマンの頭にヒットしたプラカップの蓋が開く。
中から茶色い液体と氷が溢れ出す。

そして、ビジネスマンの全身を一気に染める…

アオはあまりの惨状に目を見開いた。

頭からアイスコーヒーシャワーを浴びたビジネスマンも、自らを襲った惨状に目を見開いた。

不慮の事故とは言え、惨状を引き起こしてしまったコーヒーレディは…


「あああぁぁぁ!?
ヤっべぇぇぇ!?
クビになっちゃうぅぅぅっ!?」


床に膝をついたまま、派手なネイルを施した爪で、クルクルと巻いた髪を掻き乱した。

< 130 / 291 >

この作品をシェア

pagetop