その嘘に踊れ

これは千載一遇の好機だ。

こんなに周囲の注目を集めてしまっては、命令の遂行は不可能。

それは、この店内を監視しているアイツらにだってわかるだろう。

今、ビジネスマンがアオを逃がしたとしても、裏切りではない。
しかも、彼のミスですらない。

不慮の事故なのだから。

だからアオは、眼差しだけでビジネスマンに語る。


『俺、行くわ。
またな』


全てを察したビジネスマンも、眼差しだけでアオに語る。


『あぁ。
また、な』


『また』会える日なんて、永遠にやってこないのは百も承知だケド。

それでも二人は交わす。

再会を約束する言葉を。

目元だけで微笑んでから、今度こそアオは背を向けて歩き出した。

彼が見せたことのない優しい笑みに目を奪われ、束の間放心してしまったビジネスマンは…

カチャカチャ


「え… えぇ!?
下も脱がす気!?」


「濡れてますから!洗いますから!
どーかクレームだけはぁぁぁぁぁ!?」


コーヒーレディに外されそうなベルトを、懸命に手で押さえた。

ガチの死刑は免れても…
全裸ネクタイ+ソックスで、公開処刑の危機デスネ。

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