その嘘に踊れ

さよなら


雨は落ちてきそうにないが。

灰色の雲が、色褪せた世界に重く伸し掛かっている。

暗い夜の訪れに抗うかのような茜色の夕陽も、今日は地上に届かない。

時間の感覚が狂ってしまいそうなリアルにモノクロな景色の中を、アオは盗んだセダンで走っていた。

わざと交通量の少ない山道を通ってみたりした。
わざと車を離れ、潰れたドライブインに入ってみたりもした。

だが、襲撃はなかった。
様子を窺う妙な人影もなかった。

追跡は完全に振り切ったようだ。

さて、次は…

明かりが灯り始めた街中に舞い戻り。
セダンをコインパーキングに乗り捨て。

そこから徒歩圏内の、別のコインパーキングに急ぐ。

アオをひっそりと待っているのは、白いバン。

そして、後ろ手に手錠をかけられ、アイマスクに視界を奪われ、バンの後部座席で横向きに転がって眠る透子…

の、ハズだったンですケドネ。

まーた起きて、座ってやがりマスネ。

もぉ…
なんなの?このコ。

眠ったままでいてくれればよかったのに。

シミュレーションしていたパターンの中でも、最も辛い仕事をこなさなければ…

溜め息を深呼吸の中に隠して気持ちを落ち着けてから、アオはバンのスライドドアを開く。

すると…


「アオ?」


同時に透子も口を開いた。

いつもとなんら変わりなく。


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