その嘘に踊れ
俺も、そんな『Unnamed Children』の一人。
与えられた番号は『Sy-u800』。
確か昔は、優しい両親と暮らしていたはずなンだケド。
泥沼化した自国の内戦から逃れるために、多くの人たちに紛れて国境を目指していたはずなンだケド。
銃弾の雨が降り注いで。
俺の手を握っていた母親が倒れて。
揉みくちゃにされて…
で、なんだっけ?
あぁ、もう忘れちゃったな。
とにかく、気づけば俺は、数多く存在するそんな組織の一つ…『アイツら』に飼われていた。
窓のない、頑丈な鉄の扉で閉ざされた建物に、他の子供たちと一緒くたに押し込められ。
狭いスペースで、膝を抱えて眠ることを余儀なくされ。
一日一度の粗末な食事を与えられ。
扱ったこともない銃を一丁だけ持たされ、まるで自爆テロのような任務に送り出される日々。
劣悪な環境で寝食を共にしていても、俺を含む『Unnamed Children』が結束することはなかった。
それどころか、声を掛け合うこともなかった。
それは、『関わるな』とアイツらに命令されていたからという理由だけではなく。
怖かったから。
昨日隣にいた奴が、今日もいるとは限らない現実を、直視できなかったから。
俺たちは互いに目を合わせない。
たくさんの自分と同じ境遇の子供たちが消え、たくさんの自分と同じ境遇の子供たちが現れても、気づかずにすむように。
同じ嘆きに、気づかずにすむように。
感情に蓋をして、仲間の悲劇に無関心を装い、汚した手から目を逸らして、色を失くした世界でただただ息をして…
自らマリオネットと成り下がった俺の前に、ある日、滝のようなスコールと共に天使が舞い降りた。