その嘘に踊れ
(『生きている』とは言い難い生でも執着してしまうのが、本能ってヤツなのか…)
そんなコトを漠然と考えつつ、老朽化して住人がいなくなった中層集合住宅をワンフロアずつ丁寧に見て回りながら、階段を上る。
今のトコロ、異常はない。
この上はそろそろ最上階…
俺はピタリと足を止めた。
微かな物音。
微かな気配。
敵が、いる。
だが…
神経を張りつめ。
銃のトリガーに指をかけ。
呼吸すらやめて警戒する俺を嘲笑うかのように、ガラガラとコンクリートが崩れる音と、『きゃぁぁぁ』なんて幼い悲鳴…というより笑い声が上から降ってきた。
敵が、い…る?
あれ?ちょっと待って?
そもそも敵とは?
狙撃ポイントでキャっキャ言っちゃう暗殺者とは?
弾む足取りで階段を駆け下りて、笑い声の主は戸惑う俺の前に姿を現した。
ノースリーブの膝丈ワンピース。
顎のラインで切り揃えられた、サラサラと揺れる髪。
小造りだが、端正で愛らしい顔立ち。
おそらく10才にも満たない、アジア系の少女…
いや、天使だ。
全身に雨粒を纏った彼女は、目も眩むような輝きを放っていたのだから。
「あれ?お兄ちゃんも雨宿り?
この上はもうダメだよ。
天井がなくなってるの」
大急ぎで銃を隠す俺を見つけた天使は、濡れて額に張りつく前髪を手で払いながら言った。