その嘘に踊れ

渋谷の交差点でも、やっぱり一目で彼女だと気づいた。

どんなに人波に埋もれ、どんなにひっそりと存在していても、彼女を見つけられた。

夕闇に覆われはじめた騒がしい街の中で、彼女は相変わらずキラキラした光を纏い、小さな背中に白い羽を生やしていたから。

駆け寄って。
腕を引いて。
振り向かせ。

『アオだよ
シズク、君に会いに来たンだよ』

と、言いたかったケド…

ダメ、ダメ。
彼女は俺を忘れてるから。

そんなコトしちゃ、ただのアブナイ人だよネ。

周辺を綿密に調査し、接触のタイミングを計って…

『誘惑し、穏便に連れ出す』
コレはナイスアイデアだと思ったワケ。

だから、壁をドンしてみたワケ。

いやぁ、腹パン食らいましたよ。
胃の内容物をリバースしそうなほどキョーレツな一撃を。

で、しょーがなく拉致・監禁。

切った髪を連絡役に渡して任務の完了を伝え、ひとまず彼女の身の安全を確保した。

天使が意外と手強くて『穏便』とはいかなかったが、結果良ければってヤツでショ。

それからは…

ご存知の、シズクと鮮やかな色彩に溢れる束の間の夢に溺れる日々。

でもね?
いつもいつもアホ面で、ヘタレ晒してたワケでもないンだよ?

不意討ちのキスを食らったり。
壮大な仕返しを食らったり。
貧乳女子の呪いを食らったり。

天使で小悪魔なシズクに振り回されたり、振り回されたり、振り回されたりしながらも、俺は彼女の死を望むクライアントを捜していた。

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