その嘘に踊れ
命を無駄にしたいワケじゃない。
だが、コレしか手はない。
この場に来ているのは、特殊訓練を受けた元工作員と、その警護に当たっているプロの戦闘員たち。
個々の実力差。
装備の差。
加えて、アイツらは多数で自分は一人キリという戦力の差。
どれだけ策を練ろうとも、勝敗は火を見るより明らかだ。
複数人いるかも知れないクライアントを確実に葬り去るには、コレしか手はない。
愛しい天使の、あどけない笑顔を守りきるためには…
後悔はない。
彼女に出逢って、人の名を貰って、人として生き直せたンだから。
ほんの少しの時間でも、『アオ』という一人の人間として彼女と過ごせたンだから。
思い出すだけで心が澄み渡る、今までの全てを昇華するかのような至福とも呼べる夢のひと夏…
(もう充分だ。
俺は…
俺の人生は、幸せだった)
拳を胸に押し当てて深く息を吐き出し、アオはさっきとは打って変わって穏やかに微笑した。
が、瞬く間に凍りつく。
息を潜めるアオの傍を通った見回り役らしい戦闘員二人組の、
「あの小娘、もう死んだかな。
かなりボロボロだったケド」
「クライアントが来るまでは生かしとくだろ。
バカな女だよ。
抵抗なんてしなきゃ、楽に殺してもらえたのにな」
なんて会話を、耳にしてしまったから。