その嘘に踊れ
『あの小娘』?
ダレ?ソレ。
『クライアントが来るまでは生かしとく』『バカな女』?
ソレって…
いやいや。
まさかだろ。
だって彼女は今、日本警察に保護されているはずだ。
アイツらだって、警察署内に押し入って彼女を強奪、なんて国家権力にケンカを売るような真似はしないはずだ。
ほら、ナイナイ。
『小娘』が彼女であるはずがナイ。
でも…
万が一、なんらかの事情で、彼女があの警察署に行かなかったのだとしたら?
それで、俺を捜索していたであろうアイツらに、先に見つかって捕獲されてしまったのだとしたら?
だとしたら…
冷水を浴びせられたように、指の先から感覚が消えていく。
(行かなきゃ…)
もうクライアントの到着なんて待っていられない。
色を失くした唇を噛みしめたアオは、背を預けていた古畳のヘリからそっと身を離し、静かに、そして速やかに移動を開始した。
彼女がどんな目に遭ったのか。
そして、どんな状態でいるのか。
想像すると気が狂ってしまうから、今は敢えて考えない。
行かなきゃ。
行って、助けなきゃ。
シズク、シズク、俺の、シズク。
もう少し、待っていて…