その嘘に踊れ
透子が、『両親を早くに亡くした地味な女子高生』としてではなく、『日本経済の中枢を担う男の隠し子』としてなら、誘拐被害に遭う理由は山ほど…
「…
そう?
しーちゃんは、お父さん関係でこんなコトになってるンだと思うの?」
透子からさりげなく顔を背けたアオは、前髪で表情を隠しながら訊ねた。
シルバーグレーの奥で、アイスブルーが冷たく光る。
「正直、わかりません。
スキャンダルをネタに脅迫することが目的なら、私よりも父に接触するでしょう。
身代金目的なら、そもそも隠し子の存在を調べ上げるなんて手間はかけず、公表されている実子や孫を標的にするでしょう。
後は、なんらかの事情で私が邪魔になった父自身の差し金という可能性ですが…
今更感が拭えませんし、失敗した時のリスクを考えると、あり得ないような気がします」
あぁ、その通りだね。
君の考えは本当に理知的で、一分の隙もない。
でも。
それでも。
ナニか…
「他に心当たりはないの?
お父さんから預かってるモノがあるとか。
お父さんのコトを知ってる人がまだいるとか。
お父さん絡みじゃなくても、他にナニか…」
「どうして私に訊ねるンです?
それを知っているのは私ではなく、私を拉致したあなたのはずでしょう?」
「っ」
言葉を詰まらせて透子に視線を戻すと、彼女は瞬きもせずにアオを見つめていた。
清らかな水のように、磨かれた硝子のように、澄みきった瞳で。