その嘘に踊れ
自分用のフックをアオに見せながら、床から浮いた足をパタパタと動かしてシズクは訴える。
「や、アオ、そうじゃない。
私は私で、勝手に下りるから」
軽トラから目を離さず、ささやかな抵抗をものともせずにシズクを抱えたままアオは答える。
「ダーメ。
危ないでショ?
タイミングが合わなかったら地面に激突だよ?
もっと合わなかったら猛牛に撥ね飛ばされるよ?」
「タイミング外すとか、あり得ないから。
私はアオが思ってるより、色んなコトが出来るから。
だって」
「『出来る』か『出来ない』かじゃないの。
しーちゃんは、危ないコトはしなくてイイの」
運転席にデイジー。
助手席にはオタくん。
フロントガラスの向こう側がハッキリ確認できるほどに迫る軽トラ。
出て来やがれ!とか。
ブっ殺してやる!とか。
絶賛ボカロライブ開催中でも、言葉がハッキリ聞き取れるほどに迫るアイツらの声。
残っていたガラスの破片を肘で丁寧に払い落としたアオが…
「言ったでショ?
俺が君を守るって」
アイスブルーの瞳を優しげに細めて腕の中のシズクに微笑みかけてから、豪快に窓枠を蹴って外に飛び出す。
滑る、滑る。
ちょっと楽しいケド、結構な勢いだよ、コレ。
軽トラに辿り着く前にフックを放し、両手でシッカリとシズクを抱きしめたアオは、見事荷台に転がり込んだ。