その嘘に踊れ

「ない」


シズクは立ち上がりながら言葉を返したが、その視線の先はデイジーではなく、さっきアオに抱かれて飛び出したガラスがなくなった倉庫の窓。


「シズク、やる?」


オタくんも助手席のサイドウィンドウからヒョコっと顔を出し、シズクを見上げるが…


「まだ」


やはり彼女はソチラを見ない。

全てを飲み込んでしまいそうな黒水晶が映すのは、脱出した二人に気づいて倉庫の窓際に集まりはじめた男たち。

そしてその中にアイツを確認した瞬間、小さな桜色の唇が非情に動く。


「やれ」


ドォン!!!

地を揺るがす重低音と、空に昇る火柱。

窓の真下の壁にめりこんでいた痛車が爆発した。

『火力が足りない』って、コレデスカ。

熱せられた謎のドラム缶なども次々と爆発しはじめたようで、倉庫はみるみる炎に包まれていく。

外の敷地に放置されたガラクタに飛び火するのも、時間の問題だろう。

轟音の中。

『きゃーっ 飛ばすわよーっ』
と、デイジーの悲鳴が響く中。

『ミ○は何度でも蘇る───!!』
と、オタくんの絶叫が響く中。

さっき感じた違和感の正体に気づいたアオは、速度を上げた軽トラの荷台に熱風を浴びて立ち続けるシズクの、炎に照らされた端正な横顔を凝視して茫然と呟いた。

< 202 / 291 >

この作品をシェア

pagetop