その嘘に踊れ
「ない」
シズクは立ち上がりながら言葉を返したが、その視線の先はデイジーではなく、さっきアオに抱かれて飛び出したガラスがなくなった倉庫の窓。
「シズク、やる?」
オタくんも助手席のサイドウィンドウからヒョコっと顔を出し、シズクを見上げるが…
「まだ」
やはり彼女はソチラを見ない。
全てを飲み込んでしまいそうな黒水晶が映すのは、脱出した二人に気づいて倉庫の窓際に集まりはじめた男たち。
そしてその中にアイツを確認した瞬間、小さな桜色の唇が非情に動く。
「やれ」
ドォン!!!
地を揺るがす重低音と、空に昇る火柱。
窓の真下の壁にめりこんでいた痛車が爆発した。
『火力が足りない』って、コレデスカ。
熱せられた謎のドラム缶なども次々と爆発しはじめたようで、倉庫はみるみる炎に包まれていく。
外の敷地に放置されたガラクタに飛び火するのも、時間の問題だろう。
轟音の中。
『きゃーっ 飛ばすわよーっ』
と、デイジーの悲鳴が響く中。
『ミ○は何度でも蘇る───!!』
と、オタくんの絶叫が響く中。
さっき感じた違和感の正体に気づいたアオは、速度を上げた軽トラの荷台に熱風を浴びて立ち続けるシズクの、炎に照らされた端正な横顔を凝視して茫然と呟いた。