その嘘に踊れ
同じ年頃の子が学校に通い始める頃にはもう、私はいっぱしの兵器だった。
どんな警備の厳しい場所にも忍び込んで、どんな人間でも暗殺した。
どんな紛争地にも潜り込んで、どんな風にでも戦況を操った。
どんなセキュリティも突破し、どんなシステムにも侵入し、どんな情報も奪取した。
任務を上手くこなせば、餌を貰えた。
小さなミスを犯せば、肌に傷が残らない陰湿な拷問を食らった。
任務に出る時以外は、服どころか下着すら与えられない。
昼も夜も大型犬用のケージに閉じ込められたまま。
けれど私は、そんな自らの境遇に不満を抱いたコトは一度もなかった。
だって、他の暮らしを知らなかったから。
この世界に存在を許されたその瞬間から、そんな暮らしを続けてきたから。
身体は痛みを感じない。
心には喜びも悲しみもない。
ただ…
外に出て、同じ年頃の子たちを見る時。
その子が母親や父親と思しき大人に名を呼ばれ、笑顔で駆け寄り、差し伸べられた手をギュっと握り返すのを見る時。
彼らと自分の違いはなんなのだろうと、疑問に思うことはあった。
けれど、考えても答えは出ない。
そもそも知りもしないコトを、理解できるはずもない。
殺して。
殺して。
ケージで丸くなって眠って。
また殺して…
そんな、命令に従うだけの殺戮マシーンだった私の前に、ある日、滝のようなスコールと共に一人の少年が現れた。