その嘘に踊れ
赤道付近に位置する発展途上中のある国に、経済援助を表明している他国の要人が訪れた。
その要人は、私を作った組織の暗殺対象だった。
その表敬訪問が成功することが、二国間にナニをもたらすのか。
その表敬訪問が失敗に終わることが、二国間にナニをもたらすのか。
最新の世界情勢をも叩き込まれている私には容易に想像できたが、そんなコトは知ったこっちゃない。
商売敵である別組織が、暗殺を阻もうと横槍を入れてくる可能性があるとも聞かされていたが、それすらも知ったこっちゃない。
ただ、その日の私の任務は、その要人を殺すことだった。
車から降り、集まったメディアや民衆に手を振って、大使館に入るまで。
その、無防備に姿を晒す短い時間にターゲットを狙撃する。
最も単純で、特別警護を担う国の機関にも商売敵にも読まれやすいが、最も手っ取り早い手段だ。
私はターゲットを殺すだけ。
邪魔する奴がいるのなら、ソイツも殺すだけ。
壊れて動かなくなるまで、ただただ殺し続けるだけ。
狙撃ポイントとして目星をつけていた建物に機械的に忍び込んだ私は、重い荷物を担いで屋根が崩れ落ちた最上階に上った。
この建物は大使館からかなり遠いため、国の警備エリアからは外れている。
だが私には、視界を遮るスコールの中でも遠方にいるターゲットの心臓を正確に撃ち抜くことが出来る、万全を期した警備側の想定を凌駕する機能がある。
私は雨に打たれながら荷物をほどき、解体して運んだスナイパーライフルを組み立て始めた。
これが、映画などの演出で使われているだけの非現実的な行為だと思う人もいるだろう。
だが、呼吸するように銃のネジを微調整し、手足を動かすように銃の照準を微調整してきた私にとっては、当たり前の現実なのだ。