その嘘に踊れ
「メリット?」
「アオくんの恋が実るってコトは、シズクは彼から離れないってコトよ?
ソレってつまり、平和で平凡な生活に執着していたシズクを、やっとアタシたち側に取り込めるってコトじゃない」
スキンヘッドを傾げるアノールに、ボトルを返しながらデイジーは言った。
「そんなに上手くいくかしらね?」
「もちろん、上手くいくわ。
理由は話してもらえなかったケド、シズクは随分アオくんを気に入ってるみたいだし」
「そうじゃなくて…
それって、あの男が私たち側についてくれるコト前提の話でしょう?」
「それももちろん、ついてくれるわよ。
だって彼は本当に優しい男だもの」
デイジーの笑みが深くなり、黒さが増す。
悪い顔だ。
でもって男前だ。
オメェも、もうオネェキャラなんか便所に流しちまえよ。
「アオくんは、今も組織に囚われている仲間の『Unnamed Children』を見捨てられない。
彼らを解放するためには、長い隠居生活で腕が鈍ったシズクよりも、アタシたちを頼らざるを得ない。
頼れば恩が生じて、情も生じて、アタシたちから離れられなくなる。
優しさって、時に厄介よねェ」
うん、なかなかの策士。
でも…
「そんなに上手くいくかしら、ねェ?」
そう呟いたアノールは戻ってきたボトルの口に唇を当て、冷笑を巧みに隠した。