その嘘に踊れ
濡れた髪から雫を滴らせ、やっと彼女が振り返る。
そして、あどけなく笑う。
「やっと、ちゃんと呼んでくれた」
そっか。
やっと、か。
俺は君が振り向いてくれるのを待っていたけれど、もっと、ずっと、長い間待っていたのは、君のほうだったンだね。
その時間を今すぐ埋めよう。
君のためならどんなバカだって出来る。
「シズク、ごめんね?シズク。
シズクって、いっぱい呼ぶから、ね?シズク。
シズクーシズクーシシシシズぅぅクぅぅぅ♪」
「やめて、アオ。
さすがにウザい」
「…ソレはヒドくない?」
アオは頭を掻きながら、一歩ずつシズクに近づく。
シズクは苦笑しながら、アオを迎える。
傍に寄って、隣に並んで、二人で柵に手を乗せて、街を見下ろして…
「そのワンピ、着てくれたンだ。
やっぱスゴく似合ってる」
嬉しそうに唇を綻ばせて、アオが言った。
続く会話は、既にお馴染み。
「お風呂上がりにクローゼット見たら、ほんとにズラっとコレだけなンだもん。
コワい」
「コワい?
可愛くない?」
「だから、コワいのはワンピじゃなくてアオだってば」