その嘘に踊れ
日本の夏特有の生暖かい風が、二人の間を吹き抜ける。
果たして溝は埋まったのか。
それともさらに深くなったのか。
俯いたまま、シズクの表情が見られないアオにはわからない。
「…ごめん」
噛みしめた歯の間から、震えるバリトンボイスが漏れた。
「俺…
自分のコトにいっぱいいっぱいで、シズクの痛みに気づいてあげられなくて…
ごめんね。
俺より、誰より、一番辛かったのはシズクだったのにね。
ほんとあり得ねェし、情けねェ…」
「アオ」
「でも、もういいンだよ。
そんな無駄な力、もう捨てていいンだ。
シズクは普通の女のコでいていい」
「アオっ!」
鋭い呼び声が聞こえて。
溝を一気に跳び越えるように、白い手が伸びてきて。
カットソーの襟首を掴まれ、引き寄せられ、思わず腰を屈めると…
目の前に、二つの大きな黒水晶。
「なっ!?
ちょ…近っ!?」
「…
眼球の水分含有量が、限界を超えた」
ん? 泣いてるって…コト?
誰が?シズクが?
俺…が‥‥‥