その嘘に踊れ
「ね、シズク?」
革手袋をはめた手でザイルを握り直し、アオは低く囁いた。
もう地上は近い。
二人で最初の一歩目を踏み出す時も、近い。
「ナニ?」
「今日こそ… 朝が来るンだね」
「今日こそ?
それも、当然じゃない?
太陽が存在して地球が自転し続ける限り、必ず毎日朝は来る」
「いやいや…
そーゆー物理的な話じゃなくて…」
クールで理知的な彼女は、とってもカッコよくて素敵だと思うケド…
やっぱちょっとロマンが足りないカナ?
アオの少し厚めのセクシーな唇から、苦笑が漏れる。
「俺さ、ずっとずっと、夜明け前の真っ暗な世界にいた気がしててさ。
でも、それももう終わるンだなって思ってさ」
「ふーん…?」
頭に頭がコツンと触れ、シズクが首を傾げたのがわかる。
『君が俺を、明るい世界に連れ出してくれたンだよ』とか。
『君が朝を運んできたンだよ』とか。
言ってもわかんないンだろうな。
逆に、『よくわかる自転の仕組み』を解説されそうだな。
やっぱちょっとロマンが…
「私は別に、朝なんか来なくても平気だケド」